同時死亡の推定(相続)とは?
複数の者に相続が発生した場合は、相続が発生した順序によって法律関係が大きく変わってきます。
(具体的には、相続人の構成が変わってきます。)
ここで問題となるのは、「事故等により複数人が死亡した場合で、どちらが先に死亡したのか不明の場合」の取扱いです。
民法は、このような場合に備えて「同時死亡の推定」という規定を設けております。
このページでは、同時死亡の推定について解説いたします。
同時死亡の推定とは?
まず、「同時死亡の推定」の意味について説明いたします。
【基本事例】
・故人A
・故人B
・2人は同乗していた飛行機事故にて死亡した
という事例を想定してください。
両者の死亡の先後が不明な場合=同時死亡の推定
上記のような事故の場合には、どちらが先に死亡したか不明な場合が多いです。
このような場合は、両者が同時に死亡したものと取扱います。
これが「同時死亡の推定」です。
死亡の先後が判明している=同時死亡の推定はない
同時死亡の推定が適用されるのは「両者の死亡の先後が不明の場合」のみです。
両者の死亡の順序がはっきりしている場合には同時死亡の推定はありません。
事故において2名が亡くなった場合を例に考えてみましょう。
・病院に搬送されて死亡の先後がはっきりするケース
→同時死亡の推定はなし
・発見された際には既に死亡していたケース(死亡の先後不明)
→同時死亡の推定に該当する
となります。
同時死亡の推定が働くときの相続関係
ここまで「同時死亡の推定」の制度概要について解説いたしました。
では、この場合はどのような相続関係となるのでしょうか?
以下、同時死亡の推定が働く場合の相続関係について解説いたします。
同時に死亡したものと推定される
同時死亡の推定の効果は、文字通り同時に死亡したと推定されることです。
これにより、
・同時死亡者同士は互いに相続しない
・遺贈の効力は発生しない
といった効果があります。
以下、それぞれについて詳細を解説いたします。
同時死亡の推定の効果1:同時死亡者同士は相互に相続しない
同時死亡の推定によって発生する相続関係について説明いたします。
同時死亡の推定が働く場面では、同時死亡者同士は相互に相続は発生しません。
少し分かりづらい表現であると思いますので、以下具体例をもとに解説いたします。
【基本事例】
・父A
・娘B
・両者は事故で同時に死亡
というケースを想定してください。
「同時死亡者は相互に相続しない」というのは、
・父Aの遺産を娘Bは取得しない
・娘Bの遺産を父Bは取得しない
という意味です。
これが、「同時死亡者同士は相互に相続しない」という意味です。
存命でない人物は相続権を取得しない
相続権を取得するためには、故人死亡時において生存している必要があります。
これを「同時存在の原則」といいます。
同時死亡の推定がある場面では「父Aの死亡時=娘Bの死亡している」となります。
互いが既に死亡しているため、相続権を取得することがないのです。
代襲相続の発生に要注意
上記で説明したとおり、同時死亡の推定により両者は互いに相続権を取得しません。
ただ、この場合に気を付ける事項があります。
それは「代襲相続の有無」です。
代襲相続とは、
・被相続人の死亡以前に相続人が死亡してしまった場合
・相続人の相続人(孫など)が相続権を取得する
という制度です。
同時死亡の推定の場合、代襲相続が発生する可能性はございます。
具体例:代襲相続と同時死亡
先ほどの同時死亡の推定がはたらくケースで考えてみましょう。
【基本事例】
・父A
・娘B
・両者が同時死亡と推定されている
・娘Bには子C(Aの孫)がいる
という事例を想定してください。
父Aの遺産相続に関して、娘Bは権利を取得しません。
(先ほど説明したとおり)
ただ、本ケースでは娘Bに子C(Aの孫)が存在します。
このような場面では、父Aの相続において孫Cが代襲相続人となります。
父Aの遺産について孫Cが権利を取得するということです。
同時死亡の推定の効果2:遺贈の効力は発生しない
また、同時死亡の効果として「遺贈の効力は発生しない(遺言は失効する)」という取扱いがあります。
【基本事例】
・父A
・娘B
・2人は同時死亡
・父Aが「全財産を娘Bに相続させる」という遺言書を書いていた
という事例を想定してください。
上記のような遺言を残していた場合であっても、同時死亡の推定があるときは遺贈の効力は生じません。
これは、被相続人の死亡時には相続人は生存していなければならないという「同時存在の原則」があるためです。
結果として、遺言書の効力は失効します。(予備的遺言がある場合を除く)
まとめ
ここまで同時死亡の推定と相続ついての解説いたしました。
制度概要をご理解いただき、今後の遺産相続にお役立てください。
・死亡の前後が不明のときは同時死亡の推定がはたらく
・同時死亡の推定のとき、相互に相続は発生しない
・同時死亡の推定のとき、代襲相続は発生する
・遺言書は失効(遺贈の効力は生じない)