養子縁組前に生まれた子は代襲相続人となるか?
遺産相続の場面で相続権を持つ人物は決まっています。
これを「法定相続人」といいます。
法定相続人の判断が難しい事例があります。
代襲相続が論点となるケースはその代表例です。
養子縁組前に生まれた子は代襲相続人の資格を持つのでしょうか?
このページでは「養子縁組前に生まれた子と代襲相続」について解説いたします。
養子縁組の効果
まず養子縁組について簡単に説明いたします。
養子縁組をすると「養親・養子」の間に親子関係が成立します。
これは血縁関係とは全く関係のない話です。
血のつながりがない場合でも、養子縁組をした場合には両者は法律上の親子関係となるのです。
法律上の子の身分を取得する
養子縁組により両者は「親・子」の身分を取得します。
子には、
・実子(血のつながりのある子)
・養子(養子縁組による法律上の親子関係)
と2種類あります。
ただ、法律上は両者を区別しておりません。
「実子・養子」であっても等しく「子」の身分を持つのです。
子は第一順位の相続人
遺産相続の場面で「子」は第一順位の相続人と規定されています。
(最優先の順位ということ)
したがって、故人(親)が亡くなった場合には養子も相続人となるのです。
代襲相続とは?
次に代襲相続についても簡単に説明したします。
代襲相続とは、
・故人の死亡以前に本来相続人となる人物(子)が死亡している
・このとき、相続人の子(故人の孫)が相続人となる
制度のことを指します。
具体例を挙げると、
・祖父Aの死亡以前に子Bが死亡している
・祖父Aの相続に関してBの子C(Aの孫)が代襲相続人となる
といったところです。
養子縁組前に生まれている子はどうなる?
さて、このページの本題です。
通常の遺産相続においては、
・祖父Aの死亡以前に子Bが死亡
→Bの子C(Aの孫)が代襲相続をする
となります。
では「養親A:養子B」という関係において「養子縁組前に生まれているBの子」がいる場合、その人物の身分はどうなるのでしょうか?
代襲相続人となるのでしょうか?
原則:養子縁組前に生まれた子は代襲相続人とならない
結論から申し上げます。
原則として「養子縁組前に生まれた子」は代襲相続人となる身分を有しません。
結論として、代襲相続は起こらず当該人物が相続権を取得することはないのです。
以下、具体例をもとに解説いたします。
具体例:養子縁組前出生の子と代襲相続(原則)
・故人A(養親)
・相続人:実子B、養子C(2017年に養子縁組した)
・養子CはAより先に死亡している
・養子Cには子D(2015年生)がいる
という事例を想定してください。
本ケースは、
1.Cに子Dが生まれる(2015年)
↓
2.「A・C」において養子縁組をした(2017年)
↓
3.養子Cの死亡
↓
4.養親であるAの死亡
という時系列になります。
AC間の養子縁組より前にDは生まれています。
したがって、「養子縁組前に生まれた子」ということになります。
Dは代襲相続人とならない
本ケースでは、故人Aに「実子B・養子C」と2人の子がいます。
本来であれば2人が法定相続人となる場面です。
しかし、今回は養子Cが故人Aより先に死亡しています。
養子Cには子Dがいます。
この場合、代襲相続が起こるのでしょうか?
答えは「No」です。
先ほど説明したとおり「養子縁組前に出生した子」は代襲相続の身分を取得しません。
結論として、本事例における法定相続人は「実子Bのみ」となります。
DはAの孫ではない
それでは、なぜDは代襲相続人とならないのでしょうか?
その理由は「DがAの孫ではない」からです。
代襲相続とは、
・故人より先に本来相続人となるべき人物が死亡している
・この場合、当該人物の子(故人の孫や甥姪)が相続人となる
制度のことです。
要するに、代襲相続人となるためには「故人からみた孫(甥姪)」の身分が必要となるのです。
本ケースでは、
1.D(Cの子)が生まれる
↓
2.その後にA・Cが養子縁組
という流れです。
「AC間」は養子縁組をしておりますので親子関係が成立しています。
しかし、AD間には「祖父母・孫」という関係は法律上存在しないのです。
法律上の孫とはいえないため、結果としてDは代襲相続人になることはできません。
例外:養子縁組前に生まれた子が代襲相続人となる場合もあり
ここまで「養子縁組前出生の子は代襲相続人とならない」と説明いたしました。これは原則です。
原則には例外もあります。
場合によっては「養子縁組前出生の子でも代襲相続人となる事例」があるのです。
以下、具体例をもとに例外規定について解説いたします。
例外のケース:養子縁組前出生の子と代襲相続
・故人A
・相続人:娘B、養子C
・養子Cは娘Bの夫(Aと20017年に養子縁組した)
・養子CはAより先に亡くなっている
・BC夫婦間に子Dがいる(2015年生)がいる
という事例を想定してください。
故人Aからみると「娘B=実子」・「娘婿C=養子」という立場です。
本ケースは、
1.BC間に子Dが生まれる(2015年)
↓
2.「A・C」において養子縁組をした(2017年)
↓
3.養子Cの死亡
↓
4.養親であるAの死亡
という時系列になります。
代襲相続は起こる?
今回は「養子C」が「養親A」より先に死亡しています。
したがって、代襲相続が問題となるケースです。
なお、DはAC間の養子縁組前に生まれている子です。
原則では「養子縁組前に生まれた子」は代襲相続人となりません。
今回もそうなるのでしょうか?
Dは代襲相続人となる!
答えは「No」です。
今回のDは、「養子縁組前に生まれた子」ではありますが代襲相続人となります。
では、なぜ結論が先ほどと正反対になったのでしょうか?
Dは故人Aの直系卑属(孫)である
先ほどの原則論では、なぜ養子縁組前出生の子が代襲相続人とならなかったのでしょうか?
それは、故人の直系卑属(孫)に該当しなかったためです。
今回の事例を詳しく観察してみましょう。
先ほどの場面とは少々事情が異なります。
Dは「BC夫婦の間の子」です。
また、AC間の養子縁組前に生まれた子です。
Bの側から見ると祖父母・孫の関係が成り立つ
・AとBの関係=血のつながりのある親子
・AとCの関係=養子による法律上の親子
となります。
Cの側からみると、AD間には「祖父母・孫」という関係は成立しません。(養子縁組前にDが生まれているため)
しかし、反対にBの側から見てみましょう。
ABは実の親子の関係です。
また、DはBの子供です。
したがって、Bの側からみるとAD間には「祖父母・孫」の関係が成立しているのです。
DはAの孫の身分を有するため、代襲相続人となる資格を有します。
【今回の法定相続人】
・実子である娘のB
・孫D(養子Cの代襲相続人として:養子縁組前に出生でもOK)
まとめ
ここまで「養子縁組前に生まれた子と代襲相続」について解説いたしました。
原則と例外を覚えていただき、今後の相続手続きにお役立てください。
・養子縁組により親子関係が成立する
・養子が先に死亡した場合は代襲相続の有無を考える必要あり
・養子縁組前に生まれている子は代襲相続人とならない(原則)
・法律上の直系卑属(孫)の身分を有しないため
・ただし例外もある