相続放棄・事実上の相続放棄の違いとは?
故人の遺産が「資産より負債の方が大きい」場合には相続放棄が大変有効です。
これにより、借金を背負うことを回避できるからです。
この場面において、
・相続放棄
・事実上の相続放棄
と紛らわしい2つの制度があります。
両者はどのような違いがあるのでしょうか?
このページでは「相続放棄・事実上の相続放棄の違い」について解説いたします。
事実上の相続放棄=相続放棄ではない
まず、「事実上の相続放棄」について説明いたします。
これは、厳密に言えば「相続放棄」とは言えません。
相続の場面では、相続人全員が話し合いによって「遺産分割方法」を決めていきます。
話し合いの際に、
・自分は一切相続しない(権利を放棄する)
というのが事実上の相続放棄です。
相続放棄=家庭裁判所へ申述が必要
「相続放棄(事実上のでない)」は、上記とは異なります。
この場合の相続放棄は、家庭裁判所への申述が必要となります。
家庭裁判所から相続放棄受理の審判が下されると、当該人物は「遺産の全てを放棄する」という結果になるのです。
プラスの財産(積極財産)を放棄する点は一緒!
「相続放棄・事実上の相続放棄」どちらを選択した場合でも同じ効果を得ることがあります。
それは、故人のプラスの財産を承継しない(放棄)ということです。
プラスの財産とは、現金・預金・不動産・株式などの資産のことをいいます。(積極財産とも呼びます)
「相続放棄・事実上の相続放棄」どちらを選択した場合でも、プラスの財産を相続することはありません。
では、両者にはどういった違いがあるのでしょうか?
債務の取扱いに違いが生じる
両制度のもっとも顕著な違いは「債務がある場合の取扱い」です。
以下、
・相続放棄
・事実上の相続放棄
の場面における債務の取扱いについて説明いたします。
相続放棄:債務から逃れることが可能
家庭裁判所に申述する方の相続放棄では、故人の債務を背負うリスクはゼロです。
相続放棄により、当該人物は「はじめから相続人でなかった」という取扱いがされます。
そのため、一切の債務から逃れることが可能となるのです。
事実上の相続放棄:債務から逃れられない
これに対し、「事実上の相続放棄」では結論が真逆となります。
事実上の相続放棄は、
・遺産分割協議の場において
・自分が相続しない
と決定しているに過ぎません。
正規の相続放棄とは異なり「相続人の身分」であり続けるのです。
債権者から催促ある→支払い義務あり
債権者から支払いを求められた場合、当該人物は支払い義務があります。
・相続人当事者間の話し合い
・その場で自分は相続しない(放棄する)
と決めたところで、その合意を盾に債権者への支払いを拒むことが出来ないのです。
簡単な具体例をもとに説明いたします。
具体例:事実上の相続放棄と債務支払い
【基本事例】
故人A
相続人B、C
・全権利をBが承継する
・Cは権利放棄する
と遺産分割協議で決めた場合を想定してください。
債権者はCさんにも請求できる
この場合、先ほど説明したとおり「Cさん」は債権者から支払いを催促された場合にそれを支払う義務があります。
当事者(B・C)で決めた内容も債権者にとっては知らないことです。
その内容に基づき「自分は権利放棄しました。全部Bに請求してください」とは言えないのです。
Cは自分の支払い分をBに請求できる
「B・C」で行われた協議の結果は、債権者に対しては主張することができません。
ただし、当事者間(B・C)の間では有効な合意です。
そのため、Cさんが債権者に債務支払いをした場合、CさんはBさんに対する権利を取得します。
「立て替えた金額を自分に支払え」という内容の権利です。(これを求償権とよびます。)
事実上の相続放棄の場合、
・債権者に対しては対抗できない
・ただし、当事者間においては合意は有効に存在する
ということを覚えておいてください。
債務から完全に逃れたい場合は「事実上の相続放棄」ではダメ
ここまで説明したとおり、事実上の相続放棄では債務から逃れることができません。
もし、Cさんが完全に債務から逃れたい場合には「相続放棄(家庭裁判所への)」が必要となるのです。
まとめ
ここまで「相続放棄・事実上の相続放棄の相違点」を解説しました。
債務がある場合の取扱いに違いがある旨を覚えていただき、今後の遺産相続にお役立てください。
・相続放棄、事実上の相続放棄がある
・プラスの財産を相続しない点は一緒
・債務の取扱いに大きな違いがある
・相続放棄→完全に借金から逃れられる
・事実上の相続放棄→借金から逃れられない