遺言書と異なる遺産分割は可能か?
故人が生前に遺言書を書いている場合があります。
遺言書は「法律文書」です。
そのため、遺言書がある場合は(原則として)遺言書の内容に沿って各種手続きを進めていくことになります。
ただ、遺言書の内容は絶対なのでしょうか?
仮に、相続人全員の合意があっても覆すことはできないのでしょうか?
このページでは「遺言書通りに遺産分割しないといけないのか」について解説いたします。
遺言書がある場合:特別な事情のない限りそれに従う
遺言書の中には
・どの財産を
・誰に
・どの割合で与えるのか
が記されていると思います。
遺言書は単なるメモ書きではなく「法律文書」としての効力を持っています。
また、遺言書の内容は「故人の意思」です。
故人の意思を尊重すべく、遺言書がある場合は基本的にはその内容にしたがって遺産相続を進めていくことになります。
ただし「受け取る・放棄」は自由
ただ、遺言書の内容は「故人の一方的な意思表示」になります。
そのため、
・管理が大変なもの(別荘など)
・承継したくないもの(債務など)
・月々赤字になる財産(投資用マンションなど)
などが含まれることもあります。
そのため、受け取る側(受遺者)が遺贈を放棄をすることも認められています。
・受け取る
・受け取らない
は各人の自由意思に任されているのです。
遺言書の内容と異なる遺産分割をすることも可能
このページの本題です。
結論から申し上げますと「遺言書とは異なる内容で遺産分割をすることも可能」です。
当事者間の合意が取れれば、遺言書の内容に従わなくてもよいということなのです。
具体的には、
1.遺言書の内容の放棄
2.当事者間で遺産分割の話し合い
という手順になります。
以下、具体的ケースを基に解説いたします。
具体例:Aさんの遺産相続
【基本事例】
故人:Aさん
相続人:長男B・次男Cの2人
→「全財産を長男Bに相続させる」という遺言書あり
上記のような事例を想定してください。
Bさんの意向:弟にも半分相続してほしい
「全財産を長男Bに相続させる」という遺言書を前にBさんは悩みました。
・今後の兄弟仲が悪くはならないだろうか...
・いくら父の意思といえども、自分だけ相続するのは気が引ける..
そこで、Bさんは弟であるCさんにも半分相続してもらいたいと結論を出しました。
遺言書の内容を使わない:別の内容で遺産分割
そして、
長男B:2分の1
次男C:2分の1
ずつ相続する内容の遺産分割協議を行い、それに従い遺産相続の手続きを行いまいた。
当事者間の合意があれば遺言書とは違う内容で遺産分割可能
上記の例で説明したとおり、必ずしも遺言書通りに遺産相続を進めなくても構いません。
ただ、それには条件があります。
それは、相続当事者の全員の合意です。
上記の例では
・長男B
・次男C
の両名が相続人に該当しました。
両名の合意によって「遺言書とは違う内容で遺産分割」という方法が可能となるのです。
当事者間の合意の内訳
当事者間の合意とは、具体的には
・長男Bさん(遺言書で遺産を受け取ると指定された人)→遺言書内容の放棄
↓
遺言書がなかったことになる
↓
相続人両名(B・C)で遺産分割協議
という構成になります。
このような理論構成により、遺言書とは違った形式での遺産分割が可能となるのです。
遺言書と異なる内容で進めたいとき:注意点
ただ、全てのケースで遺言書と異なる内容で遺産分割できるわけではありません。
以下、
・遺言書と異なる割合で遺産分割できない場合
・遺産分割にあたって注意が必要なケース
について解説いたします。
遺産分割が不可なケース
遺言書と異なる遺産分割ができないケースというのが存在します。
それは、
・故人が遺言書の中で「遺産分割」を禁止している
場合です。
遺言書を書く際、内容に「遺産分割の禁止」を盛り込むことが可能です。この場合には、遺言書と異なる遺産分割することはできません。
この場合には、
・いったん遺言書どおりに相続する
・その後、当事者間で財産を移動させる
という方法になります。
遺産分割にあたって要注意なケース:遺言執行者あり
先ほど、「当事者全員の合意で遺言書の内容と違う内容で分割可能」という説明をいたしました。
ただ、遺言執行者が定められているケースでは注意が必要です。
この場合には遺産分割に関する「遺言執行者の合意」も必要となります。
遺言執行者がいる場合には「相続人の遺産処分権限」が制限されます。
そのため、遺言執行者の意思に反して勝手なことは出来ないのです。
まとめ
ここまで「遺言書の内容と異なる遺産分割は可能か」について解説いたしました。
当事者全員の合意があれば可能ということを覚えていただき、今後の遺産相続にお役立てください。
・遺言書がある→基本的にはその内容で遺産相続をする
・ただ、遺言書の内容と違う遺産分割も可能
・その場合は当事者全員の合意が要件