相続登記用委任状は原本還付できる?
故人名義の不動産がある場合には相続登記が必要です。
相続登記には「原本還付」という制度があります。
原本還付とは、法務局に提出した書類原本一式を手続完了後に返してもらう手続きです。
では、相続登記の委任状は原本還付できるのでしょうか?
このページでは「相続登記の委任状が原本還付可能なのか」について解説いたします。
原本還付とは?
まずはじめに、前提知識として「原本還付」の概要について説明いたします。
原本還付とは、その名のとおり「書類の原本を還付すること」です。
相続登記申請の際には、法務局に
・遺産分割協議書
・印鑑証明書
・住民票
・固定資産評価証明書
といった書類を提出します。
なお、提出するのは原本です。コピーでは足りません。
手続完了後に原本を返却してもらえる
原本還付の申出をしない場合、原本一式は返却されません。
(法務局にて保管される資料となる)
しかし、原本還付の申出をすれば結論は真逆になります。
上記で説明した「遺産分割協議書などの書類原本が返却される」のです。
原本還付のメリット:書類1通を使いまわすことができる
相続手続きは不動産のほか「銀行・証券会社」など他の手続きもあると思います。
原本還付をすることにより、書類原本が申請者に返却されます。
その結果、1通の書類を使いまわすことが可能となるのです。
戸籍謄本・印鑑証明書等を何通も取得する必要がなくなります。
その結果、費用手間を省くことに繋がります。
相続登記の委任状:原本還付できない(原則)
さて、ここからこのページの本題です。
以下「原則&例外」と分けて説明いたします。
まず原則から申し上げますと、相続登記用委任状は原本還付できません。
要するに、手続完了後に委任状は返却されず法務局保管資料となってしまうのです。
当該申請の為だけに作成された書類は原本還付不可
では、なぜ原本還付ができないのでしょうか?
それは、通常の相続登記用委任状が「当該申請の為だけに作成された書類」に該当するためです。
大半の添付書類は法務局にて原本還付を利用することが可能です。
ただし、例外として「当該申請の為だけに作成された書類」は原本還付不可という取扱いになります。
通常の委任状:当該登記申請のみの用途であることが一般的
通常の相続登記委任状は「当該申請のみ」に使用されることが一般的です。
(他の手続きに使用しない「相続登記専用委任状」ということ)
したがって、原本還付可能な書類から除かれているのです。
例外:別に使用する用途があれば原本還付可能!
さて、ここからは例外について説明いたします。
上記にて「当該申請の為だけに作成された委任状は原本還付できない」と説明いたしました。
裏を返せば、他の用途に使用することが明確である場合には原本還付も当然可能となるのです。
具体的には、
1.他管轄法務局への登記申請が控えている
2.同一法務局への別件登記申請が控えている
といった場面では、委任状の原本還付が可能です。
以下、それぞれについて解説いたします。
1.他管轄法務局への申請がある場合
法務局は管轄が定められています。
そして、相続登記の申請先は「不動産所在地を管轄する法務局」となります。
不動産所在地(市区町村)が離れていれば、申請先法務局が異なります。
・東京都豊島区の不動産→東京法務局豊島出張所が申請先
・東京都練馬区の不動産→東京法務局練馬出張所が申請先
となります。
1通の委任状に別管轄の相続登記事項も含まれているケース
1通の委任状に、
・A法務局への相続登記申請を委任する旨
・B法務局への相続登記申請を委任する旨
が併記されている場面を想定してください。
この場合、委任状は原本還付が可能となります。
なぜなら、この委任状は「当該申請の為だけに作成された書類ではない」からです。
(別件で他法務局への申請が控えていることが明確である)
2.同一法務局への別件申請が控えている場合
上記では「他管轄の法務局への別件申請」の例で説明いたしましたが、これは「同一法務局に対する申請」でも当てはまります。
同一法務局(東京法務局豊島出張所)に対して
・相続登記(第一段階:1月に申請)
↓
・遺贈登記(第二段階:2月に申請)
等と申請を別件に分けて行う場合を想定してください。
この場合、「第一段階の相続登記申請」の時点では委任状の原本還付が可能です。(この後に「第二段階の遺贈登記」が控えているため)
ただ、「第二段階の遺贈登記申請」の時点では委任状の原本還付はできません。
なぜなら、もうこれ以上の登記申請の予定がないからです。
「これ以上の登記申請の予定なし=当該申請の為だけに作成されている書類=原本還付不可」という取扱いになります。
まとめ
ここまで「相続登記委任状は原本還付できるのか」について解説いたしました。
本ページ内容を参考に、今後の相続登記にお役立てください。
・委任状は原本還付「できる・できない」両方のケースある
・他法務局への別件申請があるとき→原本還付可能
・同一法務局への別件申請があるとき→原本還付可能
・包括委任状→原本還付可能
・上記以外の場合=原本還付は原則できない
(当該申請の為だけに作成された委任状であるので)