遺産分割協議と債務(負債)の関係とは?
相続発生により、被相続人の全ての権利義務が相続人に承継されます。
相続人は遺産分割協議で、
・誰が
・どの財産
を相続するのかを決定することになります。
債務(マイナスの財産)も遺産も承継される!
相続の対象となるのは資産(プラスの財産)だけではありません。
債務・負債といった「マイナスの財産」も当然に遺産相続の対象となります。
実は、「債務・負債の遺産分割協議」は、「資産の遺産分割協議」と法律上の取扱いが異なります。
このページでは、遺産分割協議(債務・負債)について解説いたします。
遺産分割協議(債務・負債)には要注意
ここから、分かりやすいように具体例をもとに解説いたします。
【基本事例】
父Aが死亡。
相続人は母B・子C
被相続人の1,000万円の債務(負債)がある。
遺産分割協議で債務(負債)は全て子Cが相続すると決定した。
という事例を想定してください。
法定相続分と異なる割合で債務を相続できる?
被相続人の債務(負債)を法定相続分(半分ずつ)で相続する場合、
・母(500万円)
・子(500万円)
の割合で債務を相続することになります。
法定相続分に従って債務(負債)を相続する場合には何ら問題はありません。
問題は、遺産分割協議において全ての債務(負債)を子が相続すると決定した場合です。(=法定相続分と異なる)
このような取り決めは有効なのでしょうか?
遺産分割協議での合意:債権者には主張できない
結論から申し上げますと、
・法定相続分と異なる割合で債務を相続する内容の遺産分割協議は
・その合意内容を債権者に主張することができない
ということになります。
具体例:債権者に主張できないとは?
先ほどの具体例をもとに解説いたします。
債務(負債)は、原則として法定相続分で相続される取扱いです。
※今回の事例では、母・子が債務(負債)を500万円ずつ相続する。
ただし、先ほどの事例では
・全ての債務を子Cが相続する
と決しています。
法定相続分と異なる合意(全ての債務を子が承継する)が、債権者に対して主張することが出来ないのです。
※債権者に主張することができない=母が債権者(銀行など)から債務の支払いを求められたとき、支払いに応じなければいけないということです。
相続人間では合意は有効!
なお、遺産分割協議(債務・負債)の効力は債権者に主張できないものの、相続人の間では有効です。
ですので、債権者に支払った相続人は、「債務を相続すると決めた相続人」に対して自分の支払った金額を請求することが認められています。
本ケースで
・全ての債務を子Cが負担すると合意した
・しかし、母が500万円を銀行に弁済した
という場合には、母は子に対して「500万円の求償権(請求権)」を取得するのです。
法定相続分と異なる債務承継の合意は、
・当事者間では有効である
・ただ、債権者に対してはその旨を主張できない
ということです。
債権者の利益保護の観点から
もし、遺産分割協議(債務・負債)の効力を債権者に主張できるとすると、債権者に不利益を受ける可能性があります。
そのため、このような決まりになっています。
【具体例】
お金の無い相続人が債務を相続すると決定し、支払えなくて自己破産。
→他の相続人に請求できないとなると債権回収ができなくなるという不利益。
債務・負債を相続するときの対応策
最後に債務負債がある場合の遺産相続の対応策について説明いたします。
債務がある場合には
・遺産分割の内容について債権者の承諾を取る
・相続放棄をする
の方法が考えられます。
以下、詳細を解説いたします。
遺産分割協議(債務・負債):債権者の承諾
もし、「法定相続分と異なる割合で遺産分割」をしたい場合には、
・事前に債権者の承諾
を取り付けておくことが有効です。
債権者の承諾があれば、遺産分割協議の結果を債権者に対しても主張することが可能です。
債権者に主張できる=債務を相続しない相続人は債務を支払う必要が無い。
債務・負債の相続:相続放棄をする
相続放棄は家庭裁判所にて行う手続きです。
相続放棄をすれば、はじめから相続人でなかったことになります。
その結果、借金を相続することはありませんので債権者から請求されることもありません。
まとめ
ここまで遺産分割協議と「債務・負債」の関係について解説しました。
債務があるときの遺産分割は要注意ということを覚えていただき、今後の遺産相続にお役立てください。
・債務、負債は法定相続分に従って相続される。
・遺産分割協議(債務・負債)の結果は債権者に主張できない。
・遺産分割協議(債務・負債)は債権者の承諾があれば債権者にも主張可能。