自筆証書遺言と公正証書遺言が両方見つかった場合は?
故人が生前に遺言書を残しているケースがあります。
通常、遺言書は「1通」であることが多いのですが、稀に複数通の遺言書が出てくることがあります。
遺言書には主に2種類の形式がある
現在、多く使われる遺言書として
・自筆証書遺言
・公正証書遺言
の2つがあります。
故人が書いた「自筆証書遺言・公正証書遺言」の両方が発見された場合はどうなるのでしょうか?
どちらの遺言書の内容が適用されるのでしょうか?
このページでは「自筆証書遺言と公正証書遺言の両方が見つかった場合の取扱い」について解説いたします。
自筆証書遺言と公正証書遺言
まず前提知識として「自筆証書遺言と公正証書遺言」について簡単に説明いたします。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、「手書きの遺言書」のことを指します。
故人自身の
・自筆(手書き)
・押印
によって作成されているものです。
多くの遺言書はこちらの自筆証書遺言となります。
公正証書遺言
自筆証書遺言と併せて多く利用されるのが「公正証書遺言」です。
公正証書遺言は「公証役場」にて作成される遺言書です。
自筆証書遺言のよりも「安心・確実」であるため、多くの専門職が公正証書での遺言書作成を推奨しています。
2つの遺言書の力関係は??
故人が残した
・自筆証書遺言
・公正証書遺言
の互いの効力はどうなるのでしょうか?
力関係として、やはり「公正証書」の方が強力なのでしょうか?
両遺言の力関係は対等です!
いえ、2つの遺言書の間に力関係の優劣はありません。
ペラペラの紙一枚に書かれた手書きの文書であっても、遺言書の形式を備えているものであれば法律文書としての地位を持ちます。
・自筆証書遺言
・公正証書遺言
この2つの力関係は対等であるということを覚えておいてください。
それでは、「自筆証書・公正証書」の双方の遺言書が発見された場合はどのように対処するのでしょうか?
両者の日付をチェック
複数の遺言書が見つかった場合、大切なのは「その日付」です。
遺言書は、故人の最後の意思表示として扱われます。
そのため、少しでも死亡日に近い日(遅い日付)のものが優先されるのです。
・遺言書の形式によって力関係の優劣はない
・遅い日付(死亡日に近い方)の遺言書の内容が優先する
と覚えてきましょう。
以下、簡単な具体例をもとに解説いたします。
具体例:自筆証書遺言と公正証書遺言が見つかる
【基本事例】
故人A
相続人:長男B、次男C
・公正証書遺言:全財産をBに遺贈する(2015年作成)
・自筆証書遺言:全財産をCに遺贈する(2018年作成)
上記のような2つの遺言書が発見されたケースを想定してください。
日付に注目!
上記の例で両者の日付を比較すると、
・公正証書遺言(2015年)
・自筆証書遺言(2018年)
となっています。
したがって、内容については最新の方(2018年に書かれた自筆証書遺言)が適用対象となります。
繰り返しになりますが「公正証書と自筆証書」の力関係は対等です。
公正証書遺言であっても、日付が古い分については遺産相続の適用外となります。
2つの遺言書で内容が被らない部分は古いものも適用!
先ほど「遺言書は古い日付の方が適用対象」という説明をしました。
ただ、これは「2つの遺言書の内容が重複する場合」に限られます。
2つの遺言書の間で内容が相反しない場合には、古い遺言書の方も適用対象となります。
先ほどの具体例
先ほどは、
・公正証書遺言:全財産をBに遺贈する(2015年作成)
・自筆証書遺言:全財産をCに遺贈する(2018年作成)
という例をもとに解説いたしました。
上記の2つの遺言書は100%内容が重複しています。
・公正証書遺言→全財産をB
・自筆証書遺言→全財産をC
両者の内容が完全に相反しているため、古い日付の公正証書遺言は遺産相続の適用範囲外となりました。
具体例その2
先ほどの具体例を少し変えて、
・公正証書遺言:全ての所有不動産をBに遺贈する(2015年作成)
・自筆証書遺言:預貯金と投資信託をCに遺贈する(2018年作成)
というケースで考えてみましょう。
この場合、両者の遺言内容は重複していません。
・公正証書→不動産について記述
・自筆証書→預貯金と投資信託について記述
となっています。
このように内容が重複しない部分については古い遺言書も適用されます。結果として、不動産はBさんが取得することとなります。
まとめ
ここまで「自筆証書遺言と公正証書遺言双方が見つかった場合」について解説いたしました。
遺言書の種類によって優劣はないことを覚えていただき、今後の遺産相続にお役立てください。
・遺言書が複数出てくることが稀にある
・遺言書の形式によって力関係の優劣はない
(公正証書と自筆証書の力関係は対等)
・複数の遺言書が出てきた場合は「日付」に注目する
・新しい日付の方が優先される